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非現実の王国で

'17/6/21 イングリッド・フジコ・ヘミング ピアノソロリサイタル 2017 @すみだトリフォニーホール

https://www.instagram.com/p/BVpVQfMllL3/

ふと思い立って(というか経緯は下に書きます)、フジコ・ヘミングさんのソロコンサートに行って来ました。
わたしはピアノは子ども時代の習い事・趣味程度、クラシック/ピアノのコンサートなんていつぶり?大人になって自分でお金払ってというのは初めてか?というレベルの素人ですが、だからこそ、あまりに心を動かされたので感想メモしておきます。

ピアノは好きですが、特に鑑賞は素人なので作法的に間違っていたら、さらにあまりよく調べずに曖昧な記憶と感覚で書きますので、正確性にも問題があればすみません。
わたしの既知の世界で言うところの「ネタバレ」になったら申し訳ないので折り畳みます。

以下、演奏曲目(プログラムより)

わたしの好きな曲ばかりで、入場してプログラムの曲の並びを見た瞬間にふるえた…!特にベートーヴェンの「月光」はまさか聴けるとは…(下で書きます)。

まず、席が(思い立って直前にとったものの)わたしの好きな上階のバルコニー席で、さらにこの会場の左右バルコニーはかなりステージに迫り出す形になっていて、真横(下手側)からとは言え、かなり近くからピアノを見下ろすことのできる席でした。そのおかげでピアノを弾く指の動きや左右の手の重なり、さらにはハンマーが打弦するところ・ダンパーの上下まで見れて(だから何だと言えるほど詳しくありませんが少なくとも)"ピアノの息づかい"みたいなものが感じられたのがよかった*3。運指の具体的なところで言うと、ノクターンの最後のタラリラタラリラ〜〜とか、ラカンパネラで小指が右端をピョンピョン弾(はじ)くのとか45のトリルとか。

感想

本当に心地よい演奏で、おだやかで心を落ち着かせてくれる一方で、気持ちがブワーッと高揚して飛んで行けそうになる感覚が何度もありました。

それから、わたしがフジコさんの演奏で一番好きな特徴は旋律(?)の"聞き取りやすさ"(言い方が悪いかも知れません)なのですが、それも存分に堪能できました。
下手なたとえですが、フジコさんの演奏では旋律が、一人の少女であり、顔を上げて自由に、ひとすじの道をくるくるとすすんでいくようなイメージ。ときにキョロキョロしたり立ち止まって足元を気にしたり足早に通り過ぎたり。その少女の足元の風景は平坦な道であったり、美しい草原であったり、深く暗い海の上であったりするのですが、少女は、常に顔を上げて足取り軽く、くるくると歩みを止めません。顔が上を向いているせいでたまに小石につまづいたり足首をぐねったりするし、風景にも、たまにぼこぼこだったり水たまりがあったり塵がつもったりしているところもあるのですが、その少女の顔はずっと見えている。少女が一旦消えてまた別のところから現れてというようなこともなく(ベートーヴェンにおいてすら!)、ひとすじの道の上に顔はずっと見えている。そんなイメージです。その少女という(わかりやすい)存在を追っているうちにずんずんと奥に迷い込んで夢中になってしまうというような魅力を感じます。

テクニック、ミスタッチ、テンポの遅さ、アゴーギク、そんなの本当にどうでもいいのでは。アゴーギクに関してはわたしがメトロノームだったら気ーくるうわ!と思うくらいの"自由"さ。でもその"揺れ"こそがとてもロマンチックで気持ちいい。(素人だからこそ思えることかも知れませんが、この点については逆に素人で良かったと思うよ。)*4


そもそも

わたしがフジコ・ヘミングさんのことを知ったのは、あの話題になった1999年のNHKのドキュメンタリだったと思います。彼女の人生やキャラクターをそこで知り、その後何枚かCD聞いたりしてわたしの好きな作曲家の好きな曲(正確には、当時ちょうど「好きになったばかりの」)を多く演奏されていることも知り、上に書いたような演奏の特徴もとても好きだな〜と思っていました。

そして時は流れ、ひょんなことから先月、ガス・ヴァン・サントの「エレファント」を数年ぶりに見返しました*5。そしたら冒頭で流れるベートヴェンの「月光」がとてもきれいでミョーに気になって(個人的にはベートーヴェンはそれほど好きではないのですが「月光」だけはまた別)、ピアノ曲を聞こうと自分のiPodを探ったのですが「月光」は入っておらず…。でもフジコさんのアルバムがあるのを見つけ、それで最近よく聞くようになって気になって、一度生で演奏を聴いてみたいなあという気になり、調べたらタイミングよく今回のリサイタルがあり、チケットもとれたので行けた、…という本当にタイミングに恵まれたラッキーな機会でした。
だからこそ今回のきっかけになった「月光」が聴けたのがまさかで、本当に嬉しかった!*6

奇蹟のカンパネラ

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ここから自分語り:わたしの好きなピアノ曲について

わたしの好きなピアノ曲の作曲家を3人上げるとすると断然ショパン、サティ、ドビュッシーです(昔から言ってる)。ロマン派〜印象派に分類されるあたりの時代が好きです*7

ショパンについては曲が好きなだけでなく、彼自身になみなみならぬ思い入れがあるので別格なのですが*8、それを差し引いてもなぜロマン派や印象派が好きなのか。
それは第一に、弾いていて(もちろん聴いていても)気持ちいいからです。

そもそも習い事として昔ピアノをやっていたとはいえ、その方面を目指したことは(血迷ったことすら)人生で一度もない、素人の趣味のレベルなのでぜんぜんへたくそです。それで古典派までを弾こうとすると全く面白みを感じられない。逆にロマン派・印象派は多少譜面通りの音・リズム・テンポで弾けなかろうが、勝手な解釈で弾こうが、趣味でやってる分にはそれで十分気持ちよくなれる楽しさがあります。言い方悪く言うと"雰囲気で弾ける"。

あとはふつうに曲が好きとか面白いと思う曲が多いとかそういう理由もありますが、それについてはかなり個人的な好みの話になるので書きません。

上の3人の大作曲家は一般的にも人気は高いと思うのですが、その人気はそういったところから来ているのだろうなと思います。

さらに自分語り:ピアノ教室のつらい思い出と、楽しい思い出

ピアノはわたしの人生で一番長く続いた習い事でした。でもこの長く続いたことにも経緯があります。

ちなみに、わたしの時代/地域は周りの同世代の女の子は大概ピアノを習っているものでしたが、わたしはみんなが行っているヤマハでも、はたまたカワイでもない、個人の先生が自宅でやっている教室に通っていました。個人レッスンとは言え知っている子は誰もいなかったのは寂しかったし、流行曲のアレンジみたいな曲どころか、定番のバイエルやブルグミュラーもやらない先生だったので、(今となっては笑い話ですが)当時は周りと話が合わなくて疎外感を味わった覚えがあります。

んでバイエル・ブルグミュラーをやらずに最初子ども向けの別の教本を何冊かやったあと、その次は定番のツェルニーやハノンをやることになりました。これがとても嫌でした。ツェルニーはまだマシでしたが(40番まではやった)、ハノンは単なる指の訓練だし面白みがまったくなくてマジ苦痛で、でも先生に「やりたくないです」という勇気もない内気な子どもだったため、ただただ黙々と最後までやりきりました。ちなみにほかにソナチネも別に面白くはなかったけどやりきりました(青いソナチネアルバムでなくて箱入りオレンジ色の本でした、違いはわかりませんが)。

そしてさらに、一番苦痛だったのがハノンのあと(たぶん)にやったバッハの「インヴェンションとシンフォニア」でした。ハノンまではなんとかかんとかがんばってやっていたけど、きちんと頭で理解してカッチリカッチリ弾かないといけないこれは本当につまらなくて、練習しないので1曲"こなす"のにものすごく時間がかかり、それでまた嫌になってしまう…という悪循環、この頃はもう何も面白くなかった。(このあたりで引っ越しして教室が遠くなったり、別の習い事も増えて忙しかったはずなのに、それでもなんでやめずに続けていたのか思い出せぬ。内気すぎてやめたいと言い出すことすらできなかったからのような気もする。)

けれども先生が、わたしがあきらかに(口に出さなくても)「インヴェンション〜」を嫌がっているのを見かねたのか、または、年1回の発表会に向けて先生から何曲か候補曲をもらってその中から好きな1曲選んで練習するというときに、当時のわたしには難易度が高かったにもかかわらず、背伸びしてその年はメンデルスゾーンの「狩の歌」をやりたいと(ほとんど初めて)主張したのがきっかけだったか。あるいはわたしが将来専門的にピアノをやりたい気はまったくないですよ(ピアニストになりたいとかどころか教員になりたくて必要とかそういうこともないですよ)ということがはっきりして、「趣味」レベルのレッスンでよくなったからなのか。

結局先生の配慮により「インヴェンション〜」は数曲でさっさと挫折し、その後は、先生がわたしがショパンが好きなことなどを聞いてくれてわたしのレベルに合わせてショパンから曲を選んでくれたり、古典派が・ロマン派が・印象派がどんなものでということなども教えてくれて、系統が近い作曲家の曲を選んでくれて、それを練習する…という気楽なレッスンになり、その後はとても楽しく、おかげさまで進学で地元を出るギリギリまで続けることができました。やっぱ、好きな曲をやるのがいいよね〜(趣味だもの)。
その転換後にやった曲は5割ショパン、あとはサティとドビュッシーが3割、その他2割という感じでした。サティは最初「ジュ・トゥ・ヴ」を先生が紹介してくれたのがきっかけ。ドビュッシーの最初は「グラドゥス・アド・パルナッスム博士」でした。どちらも今でも大好き。

こういった体験があって、好きな曲を好きに弾くということが大好きになったので(その前にバッハとかで抑圧されてた解放感から余計に)、人の演奏についても、技術面がすげーと思うことももちろんですが、聴いていて気持ちいいのが一番だなと思うのです。プロ(特にクラシックなんて)に求められるものがそれだけではないというのは理解していますが。

聴いていて気持ちいいのが一番というのはピアノやクラシックに限らず。ロックやポップスや邦楽や洋楽や、アイドルやヴィジュアル系だって。(結局ここにオチる。)

*1:ショパンって「遺作」ってなってるやついっぱいない?そういうことじゃない?

*2:プログラムにないのでフジコさんの言葉のままに書いています。素人には聞き覚えはあってもどのワルツなのかわかりませんでした…。

*3:ただし、フジコさんの表情はまったくわからず…。

*4:ぜんぜん違う話ですが、昔thee michelle gun elephantのライブでは、テンポキープするどころかどんどん走っていくのが魅力の一つだったことを思い出します。

*5:「ひょんなこと」=映画「作家、本当のJ.T.リロイ」を観たこと。

*6:フジコさんのサイトを見ると、会場限定販売の最新CD(ライブ盤)には「トルコ行進曲初収録!」となっていたのでてっきりそっちをやると思っていました。

*7:音楽史とかも特に詳しくないのでよくわかってないかもですが、ベートーヴェンもロマン派?古典派では?バロックのバッハ・ヘンデルパッヘルベルの「カノン」だけは異様に好きですが)、古典派のベートーヴェンハイドンモーツアルトとかこのへんまでは苦手です。ちなみに印象派のあとから現代まではよくわかりません。

*8:そもそもショパンを好きになったのは曲よりも先に、ピアノ教室にあった伝記を読んだのがきっかけでした。ざっくり言うと彼の人生は(かなりわたしの演出が入っていますが)→「才能豊かなぼっちゃん、都会に出てきますが病弱で繊細なばかりに悩み苦しむ。そんななか男装の女流作家ジョルジュ・サンドに出会い束の間の平穏が訪れたものの、しばらくするとその関係もうまくいかなくなり、その上さらに体も弱り、長年郷愁を寄せていた故国ハンガリーに戻ることもできず、異国でひっそり夭折」。まさしくわたし好みの…(太宰某さんのようです)。